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介護経営の合併・事業再編における組織統合とリスク管理手法

  • 業種 介護福祉施設
  • 種別 レポート

介護業界においてM&Aや事業再編が増加する中、規模拡大に伴う組織の統合プロセスの重要性がこれまで以上に高まっています。すでに他法人の介護事業所を吸収合併し、事業規模を拡大された経営者や事務長の皆様におかれましては、統合をいかにして円滑に進め、大規模化によるスケールメリットを最大限に引き出すかが喫緊の経営課題となっているのではないでしょうか。

この記事では、他法人の介護事業所をM&Aや事業譲渡、吸収合併などによって引き受けた大規模法人の事務長や経営者の方々に向けて、介護事業所の合併後に生じるリアルな課題や、統合効果を最大化するための具体的な施策について、詳細かつわかりやすく解説していきます。

この記事の目次

1.介護事業所における合併とは?具体的な概要と現状の社会背景

介護事業所の合併とは、複数の法人や事業所が一つに統合され、経営基盤の強化や介護サービスの拡充を図る経営手法です。M&Aというと株式会社のイメージがありますが、近年は社会福祉法人の「合併」も増えてきています。2025年以降、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になる超高齢社会が本格的に到来し、日本の人口減少や高齢化はこれまでにないスピードでさらに進むことが予想されます。2025年には75歳以上の人口が約2,180万人に達し、単独世帯や夫婦のみの世帯が急増するため、身内だけで介護を担うことが困難となり、介護サービスのニーズはかつてない規模に拡大することが確実視されています。

しかしながら、そのスピードや年代構成は地域によってさまざまです。例えば、都市部など介護を要する高齢者が急激に増加する地域がある一方で、地方では高齢者と若年層が同時に減少し、働き手の不足が深刻化する地域もあり、それぞれで必要とされる介護体制な大きく異なります。このような状況を踏まえて、地域の状況に応じた質の高い介護サービスを効率的かつ継続的に提供できる体制を構築するために、国を挙げて推進されているのが、介護事業所の合併や大規模化、そして協働化という流れなのです。

2.合併はなぜ必要?現状の目的と直面する問題点

社会福祉法人等の大規模な法人を対象としたアンケート調査によると、介護施設の合併などの事業展開を実施する目的として、「地域のニーズへの対応」が最も多く、次いで「職員の採用強化」「災害等非常時への対応」「資金繰り等財務面での経営体制強化」が挙げられています。特に、介護人材の確保が業界全体における喫緊の課題とされる中で、合併によって介護事業所を大規模化し、ブランド力や採用力を高めることは非常に有効な手段とされています。

介護事業所の合併は、利用者の症状や状態に合った質の高い介護サービスを安定的に受けられるようにするために必要な取り組みです。しかし、コンサルタントの視点から見ると、介護事業所の合併は、法的な合併契約が完了して終わりではありません。むしろ、合併の統合プロセス(PMI)において、介護現場にはさまざまな課題やリスクが顕在化します。

介護業界の合併における最大の課題として「法人の規程や制度の統合・調整」が多く挙げられています。また、介護事業の譲渡や合併等においては「従業員の承継、雇用確保や処遇、従業員との交渉や調整」がトップの課題となっています。介護施設ごとに退職金制度や給与体系が異なるといった制度的なギャップを、合併後にいかに調整するかが、組織の融和において極めて重要となります。

3.介護現場に潜む「見えない負債」の合併リスクとオペレーショナルDDの実践

合併に伴う課題は、目に見える人事制度のギャップだけではありません。さらに注意すべきなのが、事前の財務・法務調査(通常のDD)では見抜けない、介護現場特有の潜在的リスクです。広域に分散した多数の拠点を抱えている場合、それぞれの現場で法令が適切に守られているかを、経営陣が机上の数値報告だけで判断することは困難であり、これが合併後の「ブラックボックス化した現場」という深刻なリスクとなります。

例えば、現場の運用状況を確認すると、「サービス開始後に計画書を作成し、同意を得る」といった後出しの書類作成や、訪問看護の計画書に利用者の同意署名がなく証拠がないままサービスを提供しているといった不備が発覚することがあります。さらに、虐待防止などの各種委員会が開かれておらず、組織的な統制が機能していないといったガバナンスの欠如など、現場で「当たり前」になっていた危うい慣習が次々と浮き彫りになるケースが後を絶ちません。介護業界では、現場の書類に不備がある状態が放置されていると「不正請求」とみなされ、合併後に行政監査が入った際、数年分の利益に相当する巨額の介護報酬返還を命じられるリスクがあります。深刻な不備があれば、事業停止や指定取消といった、事業継続そのものにかかわる致命的な事態に発展しかねません。

実際に、大手介護法人への投資(M&A)を実行した直後のファンド担当者が抱えていた「もし行政監査が入り、後から巨額の報酬返還を命じられたら、投資シナリオが根底から崩れてしまう」という懸念を払拭した事例があります。このケースでは、通常の財務・法務調査(DD)では見抜けないリスクを特定するため、外部の専門家が「ファンドの目」となり、分散する全事業拠点を一斉に往査しました。長年介護業界に携わることで培ってきた重点項目チェックリストにもとづき、人員基準や請求管理など100以上の項目を5段階評価し、リスクを徹底的に洗い出したのです。その結果、約8,000万円もの介護報酬返還リスクが潜在的な「金額」として特定されました。

専門家による支援は単なる「指摘」では終わりませんでした。リスクを金額で報告すると同時に、現場スタッフと共に約半年かけてすべての書類の適正化を進める実務支援を行ったのです。具体的には、以下のような6ヶ月間の伴走スケジュールで実行されました。 1ヶ月目には、対象となる全事業所を直接訪問し、実地チェックを実施して全社一斉調査を行いました。2ヶ月目には、約8,000万円の報酬返還リスクを特定し、優先順位を策定して具体的な「止血」へと移行しました。3〜4ヶ月目には、コンサルタントが介護現場に入り込み、書類の再作成等を現場スタッフと共同で実施する集中是正支援を行いました。5ヶ月目には、適正なプロセスを標準化し、組織統制を整備する仕組みの構築を行いました。そして6ヶ月目の最終評価では、再発防止策の定着を確認し、「クリーンな資産価値」へと転換させました。

このオペレーショナルDDによるリスクの可視化と封じ込めにより、どこにどれだけの課題があるか把握できない「ブラックボックス状態」から「100%可視化」へと転換し、将来の資金流出を未然に防止することで、財務毀損の事前封じ込めにも成功しました。また、実務支援により行政処分を受ける可能性を排除し、コンプライアンス不備による売却時の減額要因を取り除き、自信を持って高値での売却(イグジット)を目指せる内部統制を確立したのです。

【詳細はこちら】
M&A後に発覚した「約8,000万円の返還リスク」をどう封じ込めたか

4.組織の一体感を醸成する「人事統合」の進め方と合意形成

コンプライアンス上の見えない負債の排除と並行して進めなければならないのが、「人の心の統合」です。大規模な法人合併において、最も困難なのはこの心理的な統合であり、特に給与というデリケートな問題は、一歩間違えれば組織の崩壊を招きかねません。

介護・障がい者(児)福祉・保育の複数事業を展開する法人が近隣の社会福祉法人との合併を決断した事例では、統合後に深刻な「待遇の壁」が浮き彫りになりました。同じフロアで全く同じ仕事をしているにもかかわらず、「どこの法人から来たか」によって給与テーブルや手当額が異なる状況が発生したのです。現場には「名前だけ一つになったけれど、結局バラバラのままじゃないか」という不信感や不公平感が蔓延し、吸収された側の法人が軽視されているという心理的な溝が生じていました。優秀な人材の離職リスクが高まっただけでなく、一部の法人には労働組合があったため、強引な制度変更は法的なトラブルに発展する恐れもありました。複数の給与ルールが並走することで、事業所をまたぐ異動や応援体制の構築が困難になり、正確な人件費予測ができず複雑な計算に追われ、経営判断の「足かせ」となっていたのです。

この複雑な課題に対し、第三者の専門家が介入し、「納得」を最優先した3つの統合アプローチを実施しました。第一に、「元の法人ごとのルール」を精緻に分析することです。合併した各法人の就業規則や賃金データを徹底的に比較し、想定されるリスクと対応策を体系的に整理し、実態の差異を可視化しました。第二に、「調整手当」によるソフトランディングの設計です。給与水準が異なる法人同士を統合するため、急激な減額が起こらないよう差額を「調整手当」として支給する「経過措置」を設けました。数年かけて新基準へ移行する仕組みを作ることで、職員の生活を守りながら一本化を進めました。 第三に、「役割」を軸にした新しい評価基準の導入です。「合併前の法人の勤続年数」という過去の基準に縛られるのではなく、新しい組織で「現在、どのような役割を担っているか」を評価する「役割等級制度」を新たに導入しました。

この人事統合は、約1年間という期間をかけて段階的に進められました。1ヶ月~2ヶ月目に現状分析・労務調査(DD)を行い、3ヶ月~8ヶ月目には労働時間、等級、給与テーブルの変更について、全職員一人ひとりの処遇の変化を数パターンにわたり緻密に試算しました。そして9ヶ月~12ヶ月目には、経営者の想いをロジックで補完しながら、職員への丁寧な説明会と合意形成を徹底して行ったのです。

結果として、給与決定のロジックが透明化され、出身を問わない公平な処遇により現場の不満が沈静化し、安心感が醸成されました。共通の「役割等級」が導入されたことで、介護・障がい者(児)福祉・保育の分野を超えた適材適所の配置と人事交流が実現しました。さらに、業績連動型の賞与と一本化された給与テーブルにより、収支予測の精度が向上し、迅速な経営意思決定が可能となりました。緻密なデータ分析と丁寧な合意形成を両立させたことで、不満が解消され、大規模法人としての「スケールメリット」が真の意味で動き出した成功事例です。

【詳細はこちら】
「出身法人で給与が違う」不満を解消!合併を支えた人事統合

5.合併効果を底上げする「組織教育力の強化」と「スケールメリットの創出」

合併によって組織が大規模化すると、そのメリットを現場の教育や財務体制に還元していくことが重要です。地域医療構想や合併ニーズに対応した各介護機関の実践的な取り組みを見ていきましょう。

介護教育体制の統合と権限移譲
組織規模が急激に拡大すると、現場の教育体制の整備が追い付かず、介護サービスの質にバラつきが生じる懸念があります。これに対応するため、合併・拡大を経験したある社会福祉法人では、中央集権型の組織体制から介護現場への権限移譲を意図した、現場への権限移譲を意図した小集団部門別採算制度を導入しました。これにより、現場の若い介護リーダーが当事者意識を持ち、自律的に組織を動かす体制を構築しました。また、新卒内定者向けの初任者研修の実施など、法人全体を通貫する教育体系を合併に伴い新たに整備したことで、介護職員の離職率低下という経営上の大きな成果につながっています。

合併による介護リソースの柔軟な活用と財務改善
合併によって複数の介護施設を運営する最大のメリットは、リソースの有効活用です。有資格者の介護人材を大規模な法人内で確保しやすくなり、一時的な人員減少の際も介護施設間でスタッフの融通が利くようになります。小規模な単独の介護事業所の場合、ある事業の赤字が続くと閉鎖せざるを得ませんでしたが、合併により大規模な法人になることで、一部の介護事業が赤字であっても、全体の収益でカバーしながら事業を継続・再建することが可能になります。さらに、合併のスケールメリットを活かして、法人全体で食材等の一括仕入れを行うことで、仕入れコストを大幅に削減でき、年間1,000万円程度の差が生じた事例もあります。このように、合併による規模の拡大は財務面の安定化に直結するのです。

6.法人の合併認可手続きと新たな「社会福祉連携推進法人」の活用

社会福祉法人などが合併を実施する際には、非常に厳格な手続きが求められます。

介護事業所の吸収合併にあたっては、所轄庁の合併認可が必要です。合併認可申請に当たっては、合併の理由を記載した申請書、評議員会で合併を承認した証明書、存続する法人の定款、合併により消滅する法人の財産目録や負債証明書などを提出する必要があります。また、合併に際しては、債権者保護手続きや官報による公告、合併の登記手続きなどを経る必要があり、膨大な事務作業が発生します。事前の調査や関係者間の合意形成が、合併手続きを円滑に進める鍵となります。

一方で、直ちに合併に至らない場合でも、小規模な介護事業所が協力し合うための新たな選択肢として「社会福祉連携推進法人」制度が創設されています。これは、複数の法人が社員として参画し、介護現場の合同研修の実施や、介護人材の合同募集、紙おむつ等の介護物資の一括調達などを共同で行う仕組みです。将来的な完全統合(合併)を見据えた基盤作りとして、まずはこうしたネットワークを活用して介護事業の協働化を図り、徐々に文化やルールのすり合わせを行っていくことも、失敗を避けるための非常に有効な経営施策となります。

7.介護事業所の合併に伴う手続きの簡素化と強力な補助金の活用

法人の合併認可手続きとは別に、現場の運営を継続するための行政手続きの煩雑さが、長年にわたり事務長の大きな負担となってきました。しかし現在、統合を進める上で活用できる行政の手続き簡素化や強力な介護補助金の整備が進んでいます。

合併手続き負担の軽減
他法人の介護事業所を吸収合併する際、以前はすべての指定を取り直し、膨大な書類を再提出する必要がありました。しかし現在では、手続きの簡素化・柔軟な取り扱いが可能とされています。吸収合併の前後で、介護事業所が実質的に継続して運営されると認められる場合は、吸収合併前の旧法人が運営する介護事業所が指定を受けた際の内容から、変更があった部分のみの届出で対応可能となりました。また、指定申請等の様式が全国で統一され、原則として国の電子申請・届出システムの利用が求められています。令和7年度末より多くの自治体で運用が開始されており、これによって今後の合併展開における法人側の申請負荷の大幅な軽減が期待できます。

合併環境整備に活用できる介護補助金
さらに、国は介護サービス事業者の合併等による大規模化や協働化を推進しており、統合後の環境整備を後押しするための手厚い介護補助金を用意しています。「介護サービス事業者の生産性向上や協働化等を通じた職場環境改善事業」では、合併・大規模化に伴う職場環境の改善に対して多額の補助が行われます。
具体的には、合併による複数施設の事務処理部門の集約や共同化、老朽設備の更新、見守りセンサー等の介護ICT機器の導入やシステムの一元化、さらには人材募集の一括採用や介護合同研修の実施など、多岐にわたる取り組みに活用可能です。補助率は最大で国と都道府県を合わせて4/5などと非常に強力な支援策となっており、こうした介護補助金を賢く活用してシステムの一元化やICT化を一気に進めることで、事務負担を削減し、合併による生産性向上の恩恵をいち早く現場に還元することができるのです。

8.地域に合った介護提供体制を構築・合併後の組織統合を推進

これまで見てきたように、将来的な人口減少の程度や高齢化の割合は地域によって異なります。当然、必要になる介護機能やニーズについても地域ごとに判断しなければなりません。介護事業所の合併は、将来の地域の姿をデータに基づいて把握し、医療・介護機関と自治体などの関係者が協議を重ねることで実現されるものです。

各介護機関においては、地域ニーズへの対応を踏まえ、合併による自法人の経営の方向性を定めることからスタートします。そして合併後は、自法人の実態を客観的かつ正確に把握し、潜在的なリスクを洗い出したうえで、制度や補助金を活用しながら、現場の統合を丁寧に進めていくことが求められます。合併による介護のスケールメリットは法人にとって大きな強みとなりますが、機能転換や制度の統合には経営への影響も伴います。人員の変動や介護設備の投資にあたっては、内部だけで完結させず、詳細な検討と外部の専門的支援を活用することが非常に重要です。

日本経営グループでは、各機関の自主的な取り組みを支援し、介護事業所の合併後のバリューアップを実現するため、オペレーショナルDDによるリスクの早期特定や法令遵守体制の構築に向けた実行支援を行っています。また、医療・介護機関の合併・組織統合・人事制度構築までを一体的にサポートしています。介護事業の合併・再編統合に関する具体的な課題がございましたら、ぜひお気軽にご相談ください。


【統合効果を最大化する!実践事例の詳細はこちら】

本記事でご紹介した、見えないリスクを取り除き合併効果を最大化させた2つの実践事例の全貌をご覧いただけます。貴法人の経営改善や統合プロセスのヒントとして、ぜひ各ページをご確認ください。

事例①:M&A後に発覚した「約8,000万円の返還リスク」をどう封じ込めたか
【ケーススタディ】通常のDDでは見抜けない『潜在的負債』を特定。投資価値を守り抜くオペレーショナルDDの実践例

大手介護法人への投資後、事前の調査では見抜けなかった「ブラックボックス化した現場」の潜在リスクを100%可視化。約8,000万円の報酬返還リスクを特定し、事業停止や巨額の財務毀損といった致命的な事態をいかにして事前封じ込めしたのか、90日間の軌跡と実行プロセスをご紹介します。

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事例②:「出身法人で給与が違う」不満を解消!合併を支えた人事統合
【ケーススタディ】組織の一体感を醸成し、合併によるスケールメリットを最大化させた人事基盤再構築の実践例

「どこの法人から来たか」によって異なる給与テーブルが原因で、現場に不公平感や不信感が蔓延していました。この複雑な待遇の壁に対し、専門家が緻密なデータ分析を行い、「調整手当」によるソフトランディングと新たな「役割等級制度」を導入。真に一体化した組織を実現し、スケールメリットを最大化させた1年間の伴走の舞台裏をご紹介します。

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